税務調査で指摘されない経費の判断基準【オーナー経営者向け】

「この経費、大丈夫か?」オーナー経営者を悩ませる税務調査の恐怖

「この会食の領収書、本当に経費でよかったかな…」
経費を処理するたびに、ふとこんな不安がよぎることはありませんか?

特に、ご自身の裁量で支出を決めることの多いオーナー経営者の方にとって、会社の経費と個人の支出の線引きは、常に悩ましい問題だと思います。会社の成長のために良かれと思って支出したものが、税務調査で「これは社長の私的な支出(役員賞与)ですね」と指摘されてしまうのではないか。そんな恐怖を感じている方も少なくないでしょう。

オーナー経営者の支出は、どうしても公私混同を疑われやすい側面があります。だからこそ、税務調査で指摘を受けないためには、経費として認められるための「明確な判断基準」を理解し、日頃から適切な対応をしておくことが非常に重要です。

この記事では、税務調査で経費がどのように判断されるのか、その基本的な原則から具体的なシーン別の対策まで、分かりやすく解説します。

税務署が重視する代表的な3つの視点

税務調査で経費が認められるかどうかは、突き詰めると3つの条件で総合的に判断されます。この3つを常に意識することが、あらゆる経費判断の土台となります。ご自身の会社の経費がこの条件を満たしているか、セルフチェックしてみましょう。

条件1:事業関連性|会社の売上・利益に貢献するか?

最も重要で、すべての基本となるのが「事業関連性」です。つまり、「その支出が会社の売上や利益に直接的または間接的に貢献するものか?」という視点です。

税務調査官は、「もしこの支出がなかったら、会社の売上は上がらなかったのですか?」という厳しい目で見てきます。例えば、単に食事をしただけでは、事業関連性を説明することは難しいでしょう。しかし、その食事の場で具体的な新商品のアイデアが生まれ、後の商談に繋がったのであれば、それは事業に関連する支出と言えます。

大切なのは、「この支出が、どのように事業に繋がるのか」を、第三者に説明できることに加え、領収書・打合せ記録・契約書等の客観的証拠で裏付ける必要があるということです。

条件2:客観的証拠|支出の事実を証明できるか?

たとえ事業に関連する支出であっても、それを証明する「客観的な証拠」がなければ経費として認めてもらうことは困難です。領収書やレシートの保存は当然ですが、実はそれだけでは不十分なケースも少なくありません。

特に交際費のような支出では、領収書に加えて「いつ、誰と、何のために」支出したのかを記録しておくことが極めて重要になります。例えば、領収書の裏に会食相手の会社名・氏名や、「〇〇のプロジェクトに関する打ち合わせのため」といった目的をメモしておくだけでも、証拠としての価値は格段に上がります。

客観的な証拠がなければ、どんなに口頭で事業関連性を主張しても、「本当に事業のためだったのですか?」という疑念を晴らすことはできないのです。

条件3:社会通念上の妥当性|金額や内容が常識的か?

事業に関連し、証拠も揃っていたとしても、その金額や内容が「社会常識に照らして妥当か?」という点もチェックされます。これを「社会通念上の妥当性」と呼びます。

例えば、数名の取引先との会食で一人あたり数十万円といった極端に高額な費用や、会社の事業規模や業務内容に見合わない超高級スポーツカーの購入などは、たとえ事業目的だと主張しても否認されるリスクが高まります。

「〇〇円までならOK」という明確な基準はありません。重要なのは、「もしこの支出について第三者に説明したとき、誰もが『それは事業のために必要だね』と納得してくれるか?」という視点です。常識から逸脱した支出は、私的利用を疑われる大きな要因となります。

【シーン別】税務調査で私用と疑われやすいグレーゾーン経費

ここでは、オーナー経営者の皆様が特に判断に迷いがちな経費項目について、先の「3つの条件」に照らし合わせながら、OKになりやすいケースとNGと判断されやすいケースを具体的に解説します。

領収書に会食の相手と目的をメモしている様子

食事代:一人ランチ・家族との食事は経費になる?

  • NGケース:社長一人のランチ代や、事業に関係のない家族との食事代は、原則として経費にはなりません。「事業関連性」を証明することが極めて困難だからです。
  • OKになりやすいケース:
    • 会議費:社員と業務上の打ち合わせを兼ねて行う食事。参加者や議題を記録しておきましょう。
    • 交際費:取引先を接待するための会食。相手方の会社名・氏名、目的を必ず記録してください。
    • 福利厚生費:全社員を対象とした忘年会や懇親会など。社会通念上妥当な金額の範囲内であることが条件です。

衣服代:社長のスーツは経費で落とせるのか?

  • NGケース:社長が日常的に着用するスーツやネクタイ、シャツなどは、原則として経費になりません。プライベートでも着用できるため、「事業専用」であることを証明するのが難しいからです。
  • OKになりやすいケース:
    • 会社のロゴが入ったユニフォームやジャンパー
    • 工場や建設現場で着用する作業着やヘルメット
    • 役者が舞台で着用する衣装など、特定の業務でしか使用しない衣服
    これらは「事業専用」であることが明確なため、経費として認められやすいです。

出張・旅費交通費:家族旅行や高額な宿泊費は?

  • NGケース:出張に家族を同伴した場合、その家族分の旅費は当然ながら経費にはなりません。また、出張の目的や業務内容に対して、不相当に豪華なスイートルームに宿泊するなど、「社会通念上の妥当性」を欠く費用も否認されるリスクがあります。
  • OKになりやすいケース:業務上の必要性や会社の規模とのバランスが取れていれば、新幹線のグリーン車の利用自体が直ちに問題視されることは多くありません。「移動中に集中して資料作成を行うため」など、合理的な理由を説明できるようにしておくと良いでしょう。重要なのは、出張報告書などで出張の目的、訪問先、業務内容を明確に記録しておくことです。

自宅兼事務所の家賃・光熱費:按分の注意点

自宅の一部を事務所として使用している場合、家賃や水道光熱費、通信費などを経費にすることができます。これを「家事按分」と呼びます。

ここで最も重要なのは、「合理的で客観的な基準」で按分することです。例えば、「自宅の総床面積100㎡のうち、事業用スペースが30㎡なので、家賃の30%を経費にする」といった計算が考えられます。その際、なぜ30%なのかを証明できるよう、事務所スペースがわかる間取り図や写真を準備しておくと、税務署への説明がスムーズになります。曖昧な基準での按分は、否認の元となるため注意が必要です。

もし「私用」と判断されたら?法人と個人を襲うダブルパンチ

税務調査で経費が「私的な支出」と認定されると、単に経費が認められないだけでは済みません。多くの場合、法人と経営者個人の両方に税金が課されるという、非常に厳しい「ダブルパンチ」に見舞われることになります。そのリスクの大きさを具体的に理解しておきましょう。

法人への影響:経費否認で法人税が増える

まず、法人側では、否認された経費の分だけ利益が「かさ上げ」されます。例えば、100万円の支出が経費として認められなかった場合、会社の利益が100万円増えたものとして再計算されます。

この増加した利益に対して、法人税、住民税、事業税が追加で課されることになります。さらに、過去の申告を修正する必要があるため、本来の納付期限からの利息に相当する「延滞税」なども発生し、想定外の資金流出に繋がります。

個人への影響:役員賞与認定で所得税・住民税が増える

ここからがさらに深刻です。否認された経費は、多くの場合「会社から社長個人に支払われた賞与(役員賞与)」として扱われます。

役員賞与と認定されると、その金額は社長個人の給与所得に上乗せされます。所得が増えれば、当然ながら所得税と住民税も追加で課税されます。所得税は累進課税のため、所得が高い方ほど税率も高くなり、大きな負担となります。

つまり、否認された金額に対して、法人側で法人税等が課され、さらに個人側でもかかることになり、実質的に二重の税負担を背負うことになってしまうのです。

最悪のケース:重加算税という重いペナルティ

もし、経費の計上が意図的な事実の隠蔽や仮装に基づくものだと判断された場合、過少申告加算税だけでなく、最も重いペナルティである「重加算税」が課されます。

一般に、過少申告加算税に代えて課される重加算税は本税の35%、無申告の場合は40%と、非常に高い水準に設定されています(※一定の場合にはこれより高くなることもあります)。これは、単なる計算ミスや見解の相違ではなく、悪質な不正行為に対する罰則という意味合いが強いものです。

重加算税が課されると、税務署からの心証も著しく悪化し、その後の税務調査でも厳しくチェックされるようになるなど、金銭面以外にも大きなデメリットを被ることになります。

参考:加算税制度(国税通則法)の改正のあらまし

税務署を納得させるための対策で不安を解消しよう

ここまで経費判断の基準とリスクについて解説してきましたが、最後に、皆様が今日から実践できる具体的な対策をお伝えします。日々の少しの心がけで、税務調査に対する不安は大きく軽減できます。

税理士に経費について相談し、安心する経営者

守りの対策:領収書に「誰と、何のために」をメモする習慣

最も簡単で、かつ非常に効果的なのが、証拠書類を補強する習慣です。特に会食などの交際費では、受け取った領収書の裏や余白に、参加者の会社名・氏名と、簡単な目的(例:「〇〇社様と新製品の打ち合わせ」など)を手書きでメモしておきましょう。(注:電子保存を行う場合は、電子帳簿保存法の要件に従い、改ざんと見なされないよう適切な運用ルールを整備することが重要です。)

たったこれだけでも、その支出の「事業関連性」を証明する客観的な証拠としての価値が飛躍的に高まります。最近では、領収書を撮影してメモを追記できるスマートフォンアプリなどもありますので、ご自身が続けやすい方法で実践してみてください。

攻めの対策:旅費規程など社内ルールを整備する

経費計上の判断基準を会社として明確にするために、社内規程を整備することも有効な対策です。特に、出張時の日当や宿泊費の上限などを定めた「出張旅費規程」や、取引先への慶弔見舞金の基準を定めた「慶弔見舞金規程」などを作成しておくと良いでしょう。

規程に基づいて運用されている支出であれば、税務調査の際に「これは会社の公式ルールに従った正当な経費です」と一貫した主張ができます。税務調査官の個人的な感覚や恣意的な判断で否認されるリスクを減らす、「攻めの対策」と言えます。

重要な対策:専門家に早めに相談する

様々な対策をご紹介しましたが、それでも判断に迷うグレーゾーンの支出は出てくるものです。そんなとき、最も安全で確実な方法は、自己判断せずに専門家である税理士に事前に相談することです。

税務調査で指摘を受けてから慌てて対応するのと、日々の会計処理の段階で論点を整理しておくのとでは、結果に雲泥の差が生まれます。当事務所では、会計税務の処理に留まらず、オーナー経営者の皆様が抱える課題解決のサポートに努めています。

「この経費は大丈夫だろうか?」という小さな疑問から、資金繰りや中長期の財務戦略といった大きな課題まで、ご相談に応じて適切な助言を行います。

特に、オーナー経営者の方は、公私の線引きやグループ全体の資金繰りも含めて論点が複雑になりがちです。当事務所では、そうしたオーナー企業特有の事情も踏まえてサポートいたします。

もし経費判断や税務調査に関して少しでもご不安な点がございましたら、お気軽にお問い合わせください。
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