任意組合型の不動産小口化商品に投資した場合の確定申告方法について記載します。
不動産小口化商品では、投資家は日々の取引を記帳しなくても、毎年2月頃に届く財産管理報告書をもとに確定申告すれば足ります。
財産管理報告書が送られてくるので簡単だと思われがちですが、実際には固定資産の取得価額の確定作業、別途に負担した不動産取得税などの追加経費を計上して税務申告書を作成する作業は時間がかかります。
また、複数案件に投資している場合、案件ごとに損益を把握すべきですが、このためには、自身での記帳もしくは集計作業が必要になります。この場合も財産管理報告書をベースに記帳することになりますが、財産管理報告書の作成者の意図を読み解くことは、意外と難しいものです。
そこで、小口化不動産に投資している個人向けに、会計・税務申告方法について記載します。
このページの目次
確定申告義務について
不動産小口化商品に投資している場合の確定申告の必要性ですが、すべての投資家に必要となるわけではありません。
不動産小口化商品以外の所得が給与のみの場合、給与のみでは確定申告不要であっても、不動産小口化商品から生じる不動産所得が20万円を超えると確定申告が必要になります。
また、所得が不動産のみの場合、不動産所得から基礎控除や保険料控除などを差し引いた金額がゼロより大きいと確定申告が必要になります。
なお、確定申告の要否の判定において、不動産所得で差し引く青色申告特別控除額は10万円となります。青色申告特別控除55万円(電子帳簿保存又はe-Taxによる電子申告を行っている場合は65万円)を受けて所得がゼロとなる場合は確定申告書の提出が必要です。
確定申告が必要な場合
不動産小口化商品のみを保有している場合の簡略的な確定申告書の作成方法としては、以下となります。
まず、財産管理報告書の記載の通りに、青色申告決算書に転記します。
その後、作成済みの青色申告決算書の1)収入金額計、2)所得金額を、所得税申告書第一表の1)収入金額等、2)所得金額等の不動産の箇所にそれぞれ転記します。
単純な転記作業ですが、疑問となる事項が発生します。
青色申告特別控除
所得税の確定申告では、青色申告によることが節税となるのですが、不動産所得における青色申告では以下の検討が必要になります。
まず、不動産の貸付けが事業として行われている場合は、青色申告特別控除として55万円(電子帳簿保存又はe-Taxによる電子申告を行っている場合は65万円)の控除ができます。
ここで不動産の貸付けが事業として行われているかの判断ですが、不動産の貸付けが事業として行われているかどうかは、社会通念上事業と称するに至る程度の規模で貸付けを行っているかにより判定されます。
この基準のみでは曖昧かもしれませんが、以下の場合又は賃貸料の収入の状況、貸付資産の管理の状況等からみて以下に準ずる事情があると認められる場合には、特に反証がない限り、事業として行われているものとされます。
- (1)貸間、アパート等については、貸与することのできる独立した室数がおおむね10室以上であること。
- (2)独立家屋の貸付けについては、おおむね5棟以上であること。
いわゆる5棟10室基準なのですが、小口化された不動産の場合、各投資家は共有持分を取得していることから、共有持分での5棟10室基準の判定は、1)小口化された不動産全体の室数等で判定するか、2)全体の室数等に持分割合を乗じた数で判定するかに疑問が生じます。
この点、共有持分での5棟10室基準の判定については、全体の室数等に持分割合を乗じた数で判定せず、全体の室数等を基に判定します。
まとめると、青色申告において不動産小口化商品が事業として行われているかの判断は、社会通念上事業と称するに至る程度の規模で建物の貸付けを行っているかどうかにより判定されますが、特に反証がない限り、不動産小口化商品全体の室数等において5棟10室基準を満たしているかで判定します。
なお、事業的規模に至らないと判断する場合の青色申告特別控除は10万円となります。
追加発生の経費
不動産小口化商品で提供される財産管理報告書では、任意組合で発生した経費のみが記載されます。
一方、各投資家は、不動産取得税や司法書士報酬、その他交通費や消耗品、税理士報酬などの経費が別途に発生します。これらの経費は、財産管理報告書には計上されませんが、各投資家が別途に記帳し、決算書を作成します。
固定資産の取得価額の確定
本体価格、固定資産税相当額、事務手数料などを土地と建物に按分して固定資産の取得価額を決定します。財産管理報告書に丁寧に記載されていることが大半ですが、資料を読み解き把握する場合もあります。
持分では30万円未満の固定資産
不動産小口化商品購入後に、固定資産の耐用年数を増加させ、または価値を高める資本的支出をすることがあります。この場合、財産管理報告書では、全体の取得価額により固定資産計上の判定をしていることが通常です。
しかし、共有資産の各持分取得者の取得価額は、その全体の取得価額を持分割合で乗じた金額により算出するため、当該取得価額をもって少額減価償却資産に該当するかどうかを判定することができます。
例えば、財産管理報告書に90万円の固定資産が計上されている場合、持分割合10%であると、自己の持分金額は9万円です。この場合、10万円未満であるため一括経費処理することが可能です。
もっとも、これは節税となりますが、財産管理報告書の金額と異なる決算処理となります。共有資産の持分割合から一括経費処理ができる場合でも、財産管理報告書に従い固定資産を計上し減価償却した方が、事務処理の簡便化となるため、どちらを採用するかは費用対効果を勘案して決定します。
不動産小口化商品が赤字になった場合
区分所有マンションが赤字になった場合、他の区分所有マンションの黒字と相殺したり、不動産所得全体のマイナスを給与所得と相殺できます。
一方、ある不動産小口化商品が赤字の場合、赤字部分の経費は損金算入が認められていません。このため、マイナスではなくゼロとして申告する必要があるため、他の物件や所得との損益通算ができません。
購入初年度などは、不動産取得税や登録免許税などの支出と重なり赤字になる場合があります。また、建物比率が高く毎年赤字となることを通常とする不動産小口化商品もあり、この場合は赤字部分の損金算入ができず切り捨てられるため留意が必要です。
なお、赤字を避けるため減価償却費を計上しないことを考えたくなりますが、個人の場合、減価償却は強制であり、減価償却費をゼロとして申告することはできません。
消費税申告
小口化不動産全体の収益及び費用を持分割合に応じた金額で各投資家が所得税申告するのと同様に、消費税申告についても各投資家が持分割合に応じて申告することになります。
消費税の対策は最も節税となるものの一つですので十分な検討が必要です。
消費税申告の必要性の検討や消費税の節税対策については、基本的には持分100%の不動産を購入する場合と同様ですが、補足として、2023年10月から導入されるインボイス制度では、賃料収入や不動産売却収入の消費税分の減額による利回り低下となる可能性があり、投資判断の考慮事項のひとつとなります。
このように、財産報告書をもとに税務申告していくことは可能ですが、自身で作業するには時間がかかり、また税務メリットが取れない申告書となる場合もあります。
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不動産小口化商品の特徴を記載した「不動産小口化商品ー財産拡大と相続税対策」も是非ご参照ください。