役員報酬を上げるより効果的!手取りを最大化する「借り上げ社宅」活用術

役員報酬を上げても手取りが増えない経営者様へ

「今期も頑張って利益を出した。よし、役員報酬を上げよう!」
しかし、いざ給与明細を見てみると、増えた報酬額に対して手取りの増加はごくわずか。所得税・住民税、そして社会保険料で半分近くが引かれてしまい、がっかりされた経験はございませんか?

これに悩む経営者も少なくありません。会社の成長のために身を粉にして働いても、その頑張りが個人の資産形成に直結しにくい。このジレンマを解決するためには、少し視点を変える必要があります。

それは、無理に役員報酬(=給与所得)を上げるのではなく、「個人が支払うべき支出を、会社の経費に変える」という発想です。

そして、この考え方を実現する上で、役員社宅制度は効果的で合法的な節税手段の一つです。

【図解】役員社宅で年間手取りがこれだけ増える!報酬UPとの比較

「役員社宅が節税になるのは知っているけど、具体的にどれくらいお得なの?」
そう思われる方も多いでしょう。そこで、家賃20万円の物件に住むケースを例に、役員社宅制度を導入した場合としない場合で、会社と個人の手元に残るお金がどれだけ変わるのかをシミュレーションしてみましょう。その差は歴然です。

役員社宅導入前と導入後での手取り額の増加を比較するイメージ画像

ケース1:役員報酬1,000万円から家賃240万円を支払う場合

まずは、多くの経営者様が実践されている一般的なケースです。年間の役員報酬を1,000万円と設定し、その中から個人として年間240万円(月20万円)の家賃を支払っているとします。

この場合、課税の対象となるのは額面の1,000万円です。ここから所得税・住民税、そして社会保険料(健康保険・厚生年金)が差し引かれます。そして、残った手取りの中から、家賃240万円を支払うことになります。税金や社会保険料の負担の重さを改めて実感されるのではないでしょうか。

ケース2:役員報酬を下げ、会社が家賃を負担する場合(社宅化)

次に、役員社宅制度を導入したケースです。家賃分を考慮し、役員報酬を年間760万円に下げます。そして、会社が家主と賃貸借契約を結び、家賃240万円を会社の経費として支払います。

役員は、国税庁の規定に基づいて算出した「賃料相当額」を会社に支払います。この賃料相当額は国税庁の算式で算出され、物件ごとに大きく異なりますが、ここでは仮に月2万円、年間24万円とします。

この場合、個人の課税対象は760万円に下がります。これにより、所得税・住民税が軽減される可能性があります。さらに重要なのが社会保険料です。社会保険料は「標準報酬月額」を基準に計算されるため、役員報酬の額面が下がることで、個人負担分だけでなく、会社負担分の社会保険料も同時に削減されます。

【重要】導入時期の注意点(定期同額給与) 役員報酬の改定(減額)は、原則として「事業年度開始から3ヶ月以内」に行う必要があります。期中の変更は税務上のリスクがあるため、導入タイミングについては必ず事前にご相談ください。

結論:会社の実質負担はほぼ同じでも、手残りは数十万円増加

上記の2つのケースを比較すると、驚くべき結果が見えてきます。

項目ケース1:個人で家賃支払いケース2:役員社宅導入差額
役員報酬1,000万円760万円-240万円
所得税・住民税 (概算)約150万円約80万円-70万円
社会保険料(個人負担・概算)約120万円約110万円-10万円
個人の手取り額約730万円約570万円-160万円
ここから支払う家賃240万円24万円(自己負担分)-216万円
最終的な個人の手残り490万円546万円+56万円
社会保険料(会社負担・概算)約120万円約110万円-10万円
役員社宅導入による手残り額の比較シミュレーション(概算例)

※上記はあくまで概算シミュレーションであり、家族構成や各種控除、社会保険料率などにより実際の金額は変動します。(試算の前提:40歳未満・扶養親族なし・東京都の令和7年度協会けんぽ保険料率・厚生年金保険料率を参考に概算。所得税・住民税は給与所得控除・基礎控除・社会保険料控除のみを考慮した概算値です)※社会保険料の等級が下がると、将来受け取る厚生年金の受給額が減少する可能性があるので、現時点でのキャッシュフロー最大化を優先することになります。

ご覧の通り、会社としての支出総額(役員報酬+社会保険料会社負担+家賃)はほとんど変わらないにもかかわらず、経営者個人の手元に残るお金は年間で約56万円も増加しました。 さらに、会社は社会保険料負担10万円減少し、かつ社宅収入24万円を受領します。つまり、会社と個人あわせて年間約90万円ものキャッシュが外部に流出せず手元に残る計算です。役員社宅は、単なる福利厚生ではなく、会社と個人の財産を最大化するための有力な選択肢の一つです。

導入は簡単!今お住まいの家をそのまま社宅にできます

「これほど効果があるならすぐにでも導入したい。でも、引っ越しが必要だったり、手続きが面倒だったりするのでは?」
ご安心ください。役員社宅制度は、多くの場合、既存の物件を活用できます。

個人契約から法人契約へ賃貸契約を切り替える手続きのイメージ

手続きは「個人契約」から「法人契約」への切り替えだけ

具体的な手続きは、一般的な流れとして、現在「個人名義」で結んでいる賃貸借契約を、「法人名義」に切り替えることになります。

  1. 大家さん・管理会社へ相談と承諾
    まずは、契約名義を個人から法人へ変更したい旨を伝え、承諾を得ます。入居者が変わるわけではないため、多くのケースでスムーズに承諾を得られます。
  2. 法人名義で新規契約を締結
    現在の個人契約を解約し、新たに会社名義で賃貸借契約を結び直します。ケースにより敷金・礼金・仲介手数料が再度発生したり、貸主の承諾が得られない場合がありますので事前にご確認ください。
  3. 会社と役員間で転貸借契約を締結
    会社が借りた物件を、役員個人に社宅として貸し出すための「転貸借契約書」を締結します。この際に、税務上適正な家賃(役員負担額)を設定することが最も重要になります。

このように、手続き自体は決して複雑ではありません。契約書の切り替え手数料程度で、大きな節税メリットを享受できる可能性があるのです。

持ち家でも社宅にできる?その条件と注意点

「賃貸ではなく、自分の持ち家に住んでいる場合はどうだろう?」というご質問もよくいただきます。結論から言うと、役員個人が所有する物件(持ち家)を会社が借り上げ、それを社宅として役員に貸し出すという方法も可能ではあります。

ただし、この方法は第三者からの賃貸に比べて、税務署からより厳しい目で見られる傾向にあります。特に、会社が役員に支払う家賃(借上料)の金額設定が恣意的になりやすく、適正な金額でなければ役員への利益供与とみなされるリスクがあります。(参考:国税庁タックスアンサー No.2600 役員に社宅などを貸したとき

また、役員個人に不動産所得が発生し、さらに住宅ローン控除を受けている場合、社宅として法人に貸し出すと控除の対象外となるなど、注意すべき点が多岐にわたります。持ち家の社宅化を検討している場合は、個別のシミュレーションが必須です。安易な判断はせず、必ず事前に税務の専門家へご相談ください。

【税務調査の最重要ポイント】家賃設定のルールと否認リスク

役員社宅制度を導入する上で、成功と失敗を分ける最大のポイントは「役員が負担する家賃をいくらに設定するか」に尽きます。「なんとなく家賃の1割くらいを給与から天引きしておけば大丈夫だろう」といった安易な設定は、将来の税務調査で手痛い指摘を受ける原因となりかねません。

ここでは、税務調査で否認されないための、家賃設定のルールについて詳しく解説します。

税務調査で役員社宅の家賃設定の根拠書類を厳しくチェックされている様子

なぜ「家賃の50%」では節税効果が半減するのか?

インターネットなどで調べると、「役員には家賃の50%以上を負担させれば給与として課税されない」という情報を目にすることがあります。

しかし、国税庁は、役員が負担すべき最低限の家賃として「賃料相当額」という基準を定めています。この計算式を使うことができれば、実家賃の10%〜20%程度の負担で済むケースが多くあります。

つまり、「50%負担」は安全策ではありますが、本来もっと安くできるはずの節税メリットを自ら捨ててしまっていることになるのです。最大の効果を得るためには、専門家による正確な「賃料相当額」の計算が不可欠です。

適正家賃の計算に必要な「賃料相当額」とは

国税庁が定める「賃料相当額」は、役員社宅の規模によって計算方法が異なります。

  • 小規模な住宅の場合 もっとも節税効果が高い区分です。この場合、固定資産税評価額をベースにした計算式により、非常に低い賃料設定が可能になります。
    マンション(鉄筋コンクリート造など): 床面積99㎡以下(約30坪以下)
    ・木造住宅など: 床面積132㎡以下(約40坪以下)
  • 小規模な住宅以外の場合(一般住宅)
    上記より広い物件の場合です。自社所有か借り上げかで計算方法が変わりますが、一般的に小規模住宅よりも負担額は大きくなります。

このように、計算には「固定資産税の課税標準額」といった専門的な情報が必要であり、ご自身で正確に算出するのは非常に困難です。この計算を誤ると、次の否認リスクに直結します。

参考:No.2600 役員に社宅などを貸したとき

税務調査で否認された場合の厳しいペナルティ

もし税務調査で、設定した役員負担額が「賃料相当額」に満たないと判断された場合、その差額分が「役員賞与」と認定されます。 役員賞与は会社の経費(損金)にならず、法人税が追徴される上に、個人には所得税の追徴、さらに延滞税などのペナルティも課せられます。正しい知識に基づいた運用がいかに重要か、お分かりいただけるかと思います。

役員社宅の導入でよくある質問(Q&A)

ここでは、役員社宅の導入を検討される経営者様からよくいただくご質問にお答えします。

Q. 豪華なタワーマンションでも社宅にできますか?

A. 可能ですが、注意が必要です。税法上、床面積が240㎡を超えるような物件は「豪華社宅」とみなされる可能性があります。豪華社宅に該当すると、通常の実勢価格(時価)を基に家賃を支払う必要があり、節税メリットはほとんどなくなります。

Q. 住宅ローン控除との併用は可能ですか?

A. 原則として併用できません。住宅ローン控除は「個人が住むための家」であることが条件です。会社に貸して社宅化すると「事業用」とみなされ、控除の対象外となります。

Q. 年度の途中でもすぐに始められますか?

A. 社宅契約自体はいつでも可能ですが、役員報酬の減額を伴う場合は「期首から3ヶ月以内」に行うのが原則です。期中での導入をご検討の場合は、報酬額を変えずに社宅家賃分を徴収する等の対策が必要ですので、まずはご相談ください。

    役員社宅の適正な家賃計算と導入は専門家にお任せください

    役員社宅制度は、適切に運用すればキャッシュフローを劇的に改善できますが、効果は個別の税制・社会保険等の条件によります。

    その効果を最大限に引き出し、かつ税務上のリスクを抑えるためには、根拠に基づいた「社宅管理規程の作成」と、法令に準拠した「正確な賃料相当額の計算」という、2つの専門的なステップが不可欠です。

    もし、少しでもご自身のケースで不安な点があれば、自己判断で進めてしまう前に、ぜひ一度私たちにご相談ください。当事務所では、会計税務のプロフェッショナルとして、貴社の状況に合わせた最適な導入プランを作成いたします。

    「自分の自宅は小規模住宅に該当するのか?」 「具体的にいくら手取りが増えるのかシミュレーションしてほしい」

    といったご相談も大歓迎です。貴社の決算書やご自宅の固定資産税課税明細書などをご準備いただければ、より精緻な節税効果を算出いたします。まずはお気軽にお問い合わせください。

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    ※シミュレーションは個別試算であり、結果を保証するものではありません。具体的な効果は個別の事情によります。

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