出張時の日当の正しい設定方法|節税効果と妥当な相場を専門家が解説

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出張日当とは?まず基本と3つの節税効果を理解する

「出張日当をうまく活用すれば、効果的な節税ができるらしい」
オーナー経営者様であれば、一度はこのように耳にしたことがあるかもしれません。しかし同時に、「金額設定はいくらが妥当なのだろう?」「税務調査で否認されたらどうしよう…」といった不安から、導入に踏み切れていない方も多いのではないでしょうか。

出張日当は、正しく設計・運用すれば、会社と個人の両方に大きなメリットをもたらす、非常に有効な制度です。この記事では、出張日当の基本的な知識から、税務調査で指摘されないための妥当な金額設定、具体的な導入ステップまで、専門家の視点からわかりやすく解説します。

そもそも出張日当とは何か?交通費・宿泊費との違い

出張日当(出張手当とも呼ばれます)とは、役員や従業員が出張した際に、交通費や宿泊費とは別に、会社が定額で支給する手当のことです。

交通費や宿泊費は、領収書に基づいて実費を精算するのが一般的です。一方、日当は「出張中に発生するであろう細々とした経費」を補填する目的で支払われます。例えば、出張先での飲食代、出張ゆえの雑費などがこれにあたります。これらの費用を一つひとつ領収書で精算するのは非常に手間がかかるため、あらかじめ「このくらいの金額はかかるだろう」という概算額を定額で支給する、という考え方に基づいています。

この「実費弁償的な性質」を持つことが、日当が税務上、特別な扱いを受ける重要な根拠となります。

【効果1】法人税:会社の経費(損金)にできる

会社が役員や従業員に支給した日当は、会計上「旅費交通費」として扱われ、その全額を経費(損金)に算入することができます。経費が増えるということは、会社の利益がその分だけ圧縮されることを意味します。結果として、課税対象となる所得が減り、法人税の負担を軽減する効果が期待できます。

これは、日当制度がもたらす最も基本的な節税効果の一つです。

【効果2】所得税・住民税:役員・従業員の手取りが増える

日当が注目される最大の理由は、受け取った役員や従業員個人の税金にあります。通常、会社から受け取る給与や役員報酬には所得税や住民税がかかりますが、日当は、所得税基本通達9‑3に定める『その旅行に通常必要であると認められる範囲』に該当する部分については非課税として扱われます。これを超える金額は給与として課税されます。つまり、日当として受け取った金額には税金がかからず、そのまま個人の手取りになるのです。

実費弁償的な性質が明らかである場合、社会保険料の算定基礎から除外されることが一般的です。ただし支給実態や規程の内容次第では算定基礎に含まれる場合があるため、運用にあたっては社会保険の取扱いも確認してください。同じ金額を役員報酬の増額で支給するのに比べ、日当として支給する方が、はるかに効率的に役員や従業員の手取り額を増やすことができるのです。

【効果3】消費税:仕入税額控除の対象になる

意外と見落とされがちですが、国内出張の日当は、当該旅行について『通常必要であると認められる部分』に限り、消費税法上の課税仕入れとして仕入税額控除の対象になり得ます(出張旅費等特例)。適用には必要性の判定があり、海外出張などは原則対象外です。

インボイス制度が開始されましたが、出張旅費等については、従業員等に支給する通常必要と認められる部分については、インボイスの保存がなくても帳簿への記載のみで仕入税額控除が認められる特例があります。この専門的な視点を持つことで、法人税、所得税に加えて消費税まで含めた、トータルでの節税効果を高めることが可能になります。

会社の経費を節約し、貯金箱にお金を入れるイメージ。出張日当による節税効果を象徴している。

税務調査で否認されない「妥当な日当額」の決め方

多くの経営者様が最も悩まれるのが、「日当は、具体的にいくらに設定すれば良いのか?」という点でしょう。日当の金額設定は、税務調査で最もチェックされやすいポイントです。ここでは、税務調査官の視点も踏まえ、日当金額を決定するための基準を解説します。

大前提:「社会通念上相当な金額」とは?

所得税法では、非課税となる旅費の範囲を「その旅行に通常必要であると認められるもの」と定めていますが、具体的な上限金額は明記されていません。そこで重要になるのが、「社会通念上相当な金額」という考え方です。これは、世間一般の常識からみて、妥当な範囲内の金額であるかどうか、という基準です。

税務調査では、この「社会通念上相当な金額」であるかどうかが、主に以下の2つの軸で総合的に判断されます。

  • 社内でのバランス:社長・役員・一般社員など、役職間の金額設定に合理的な差が設けられているか。
  • 同業他社とのバランス:自社と事業規模や業種が類似する他の会社と比較して、著しく高額になっていないか。

参考基準1:公的データから見る日当の相場

自社の日当額を検討する上で、客観的な指標となるのが公的なデータや民間の調査結果です。これらは、同業他社とのバランスを判断する上での有力な参考資料となります。

例えば、国家公務員の旅費に関する基準や産労総合研究所などの調査結果などから、役職別の平均的な支給額などを知ることができます。

あくまで一例ですが、これらのデータを参考にすると、以下のような金額が一つの目安として考えられます。

役職日当の目安
社長・役員3,000円~5,000円程度
部長クラス2,500円~3,000円程度
一般社員2,000円~2,500円程度
役職別の日当額の目安(国内出張・宿泊ありの場合)

※上記はあくまで一般的な目安であり、企業の規模や業種、出張の内容によって妥当な金額は変動します。

参考基準2:社内の役職に応じたバランス設定

税務調査では、他社との比較だけでなく、「社内での支給バランス」も重要な論点となります。例えば、社長の日当だけが突出して高く、一般社員との間に大きな格差がある場合、「なぜこれほどの差があるのか」を合理的に説明できなければなりません。

もちろん、役職や責任の重さに応じて日当に差を設けること自体は問題ありません。社長や役員は、出張先で緊急の経営判断を迫られたり、取引先との会食が発生したりする可能性が一般社員よりも高いと考えられるためです。重要なのは、その金額差が誰の目から見ても納得できる範囲内であり、客観的な理由に基づいていることです。社内規程で役職ごとに段階的な金額を設定し、その公平性を担保することが、否認リスクを避ける上で非常に重要になります。

【実践】出張日当制度を導入するための4ステップ

日当制度のメリットと妥当な金額の考え方を理解したら、次は実際に制度を導入するステップに進みましょう。ここでは、税務署にきちんと認めてもらうための具体的な手順を4つのステップに分けて解説します。

ステップ1:出張旅費規程を作成する

日当を非課税経費として支給するための絶対条件、それが「出張旅費規程」の作成です。口約束や慣習で日当を支払っていても、税務上は認められません。

出張旅費規程は、「会社として統一されたルールに基づき、全ての対象者に公平に日当を支給しています」ということを客観的に証明するための根拠書類です。税務調査が入った際には、この規程の有無がまず確認されます。出張旅費規程は非課税性を示す重要な根拠です。規程がない場合、税務署は実態確認を重視し、否認リスクが高まるため、規程整備と運用の記録化を強く推奨します。

ステップ2:規程に盛り込むべき必須項目を定める

出張旅費規程には、以下の項目を網羅的に記載することが一般的です。誰が読んでも誤解が生じないよう、具体的かつ明確に定めましょう。

  • (1) 目的:この規程が、業務命令による出張旅費の取り扱いを定めるものであることを明記します。
  • (2) 適用範囲:適用範囲は規程で明確に定め、特定の者のみを対象とする場合は、その合理的な理由を記載して客観性を担保してください(不当な恣意性があれば否認リスクが高まります)。
  • (3) 出張の定義:「通常の勤務地を離れて業務に従事すること」といった基本的な定義や、日帰り出張の基準(例:片道の移動距離が100km以上など)を定めます。
  • (4) 旅費の種類と金額:日当、宿泊費、交通費など、支給する旅費の種類と、役職に応じた具体的な金額を一覧表などで明確に記載します。
  • (5) 申請・精算手続き:出張前の申請(出張申請書)や、出張後の精算(旅費精算書・出張報告書)に関する具体的な手続きの流れを定めます。

ステップ3:株主総会または取締役会で承認を得る

作成した出張旅費規程が、単なるドラフトではなく、会社の正式なルールとして効力を持つことを証明するために、承認プロセスを経ることが重要です。株式会社であれば株主総会や取締役会、合同会社であれば社員総会などで規程を審議し、承認を得ましょう。

この承認プロセスを経ておくことで、規程の客観性と正当性が格段に高まります。もちろん、承認を得た日付や内容がわかる議事録をきちんと作成し、保管しておくことを忘れないでください。これも税務調査における重要な証拠書類となります。

ステップ4:規程に沿った運用を徹底する

最も重要なのが、このステップです。どんなに立派な出張旅費規程を作成しても、それが「作りっぱなし」で実際の運用が伴っていなければ何の意味もありません。

税務調査では、規程の存在だけでなく、その規程通りに運用されているかという「実態」が厳しくチェックされます。具体的には、

  • 出張のたびに「出張申請書」が提出されているか?
  • 出張後には「出張報告書」や「旅費精算書」が作成されているか?
  • 精算書に記載された金額は、規程の金額と一致しているか?

といった点が確認されます。日々の地道な運用こそが、日当制度を正しく機能させ、税務上のリスクから会社を守るための鍵となります。

出張旅費規程に基づき、旅費精算書を記入している様子。正しい運用が重要であることを示している。

【ケース別】日当設定で迷いやすい点のQ&A

ここでは、多くの経営者様が実際に判断に迷われる具体的なケースについて、Q&A形式で分かりやすくお答えします。

Q. 日帰り出張でも日当は支給できますか?

A. はい、可能です。

宿泊を伴わない日帰り出張であっても、日当を支給することは税務上認められています。ただし、近隣への少しの外出まで日当の対象にしてしまうと、「それは通常の外出であり、出張とは言えない」と指摘される可能性があります。

そこで重要になるのが、出張旅費規程において「日帰り出張」の定義を明確にしておくことです。例えば、「通常の勤務地から片道100km以上の移動を伴う業務」のように、距離や移動時間などを基準に、客観的に「出張」と判断できるルールを設けることが有効です。この基準を満たした場合にのみ日当を支給するという運用を徹底すれば、税務調査でも説明がしやすくなります。

Q. 海外出張の場合、日当は高く設定できますか?

A. はい、国内出張よりも高く設定することに合理性があります。

海外は日本と比べて物価が高かったり、治安の面で特別な注意が必要だったり、為替レートの変動リスクがあったりと、国内出張よりも諸雑費がかさむことが一般的です。そのため、国内出張よりも高い日当を設定することには合理性があると認められやすい傾向にあります。

ただし、その場合も無制限に高くできるわけではありません。渡航先の国や地域の物価水準などを考慮し、客観的に説明可能な範囲内の金額に設定することが重要です。例えば、北米・欧州、アジアなど、地域ごとに金額を設定するのも一つの方法です。

Q. 一人社長でも日当制度は活用できますか?

A. もちろん活用できます。むしろ、積極的に活用を検討すべきです。

「従業員がいない一人社長では、日当制度は使えないのでは?」と誤解されている方もいらっしゃいますが、全くそんなことはありません。法的には、会社(法人)と社長(個人)は別人格です。そのため、会社が定めた出張旅費規程に基づき、社長個人に出張日当を支給することは何ら問題ありません。

役員報酬は一度決めると原則として事業年度の途中では変更できませんが、日当は出張の都度、経費として計上できます。一人社長にとって、日当制度はご自身の手取りを増やしつつ、会社の節税も実現できる、非常に柔軟で有効な手段と言えるでしょう。

一人社長でも出張日当制度を活用できることを示す、自信に満ちた日本人男性経営者。

やりすぎは禁物!日当設定で陥りがちな失敗とリスク

専門家としての視点:日当制度の「落とし穴」
出張日当は、正しく使えば非常に有効な節税策となります。しかし、その効果を追求するあまり、社会通念を逸脱した運用をしてしまうと、かえって大きなペナルティを課されるリスクがあることを知っておかなければなりません。
例えば、明らかに高額すぎる日当を設定したり、近所への外出のような実質的に出張とは言えない移動に対して日当を支給したりするケースです。このような運用は、税務調査において厳しく否認される可能性が非常に高いと言わざるを得ません。大切なのは、節税効果と税務リスクのバランスを正しく理解し、客観的な根拠に基づいた適切な制度を構築・運用することです。

失敗例1:社会通念を逸脱した高額な日当設定

「非課税なら、できるだけ高く設定したい」という気持ちは理解できますが、これが最も危険な考え方です。相場から著しくかけ離れた日当(例えば、国内出張で1日2万円など)を設定した場合、税務調査で「社会通念上相当な金額」を超える部分については、給与として扱われる可能性があります。

給与と認定されると、その金額に対して源泉所得税が課され、追徴課税が発生します。さらに、それが役員に対するものであれば「役員賞与」とみなされ、会社の経費(損金)に算入することもできなくなります。結果として、個人と会社の両方で税負担が増えるという、まさに「ダブルパンチ」の状態に陥ってしまうのです。

失敗例2:出張の実態がない「カラ出張」での支給

言うまでもありませんが、出張の事実がないにもかかわらず、日当を支給する「カラ出張」は絶対に行ってはいけません。これは単なる計上ミスではなく、意図的な利益操作(脱税)とみなされ、通常の追徴税額に加えて、最も重いペナルティである「重加算税」が課される可能性があります。

出張の事実を客観的に証明するためにも、航空券の半券や新幹線の利用履歴、出張先での会議の議事録、宿泊先の領収書といった証拠書類(エビデンス)を、出張報告書と共にきちんと保管しておくことが不可欠です。

失敗例3:社長や特定の役員のみを対象とした規程

「節税のメリットは社長である自分だけが受けられれば良い」と考え、出張旅費規程の適用対象を社長や特定の役員に限定するケースがあります。しかし、このような恣意的な制度は、税務調査で非常に厳しく見られます。

なぜなら、全従業員に公平に適用されるべき社内ルールが、特定の人物への利益供与のために使われていると疑われるからです。その結果、支給された日当は「日当」ではなく、実質的な「給与」であると認定されるリスクが高まります。日当制度を正しく運用するためには、「全役員・全従業員を対象とする」という公平性の大原則を必ず守るようにしてください。

税務調査で高額な日当設定を指摘されている場面。不適切な日当設定のリスクを表現している。

まとめ|専門家と共に、貴社に最適な日当制度の構築を

出張日当制度は、正しく理解し、適切な手順で導入・運用すれば、会社の法人税、役員・従業員の所得税、さらには消費税の負担まで軽減できる可能性がある、非常に強力な経営ツールです。

この記事でご紹介したポイントをまとめると、以下のようになります。

  • 日当は「法人税」「所得税・住民税」「消費税」の3つの側面で節税効果が期待できる。
  • 金額設定は「社会通念上相当な金額」が基準となり、公的データや社内バランスを考慮して決定する。
  • 導入には「出張旅費規程」の作成と、それに沿った厳格な運用が不可欠。
  • 高すぎる金額設定や不公平な運用は、給与課税や役員賞与認定などの大きなリスクを伴う。

とはいえ、自社の事業規模や業種、出張の頻度などを考慮した上で、「いくらが本当に妥当な金額なのか」「自社に合った旅費規程はどのように作れば良いのか」といった判断は、専門的な知識がなければ難しい部分も多いかと存じます。

当事務所は、会計税務の支援や経営相談に対応します。日当制度の導入はもちろん、財務戦略や管理体制の構築まで、経営判断に直結するあらゆるお悩みをご相談いただけます。

もし、貴社に最適な日当制度の構築や、出張旅費規程の作成でお悩みの場合は、どうぞお気軽にご相談ください。初回相談(30分程度)は料金を頂いておりません(事前予約制)。

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