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定期同額給与とは?損金算入の要件と役員報酬改定の注意点を解説

2025-11-17

定期同額給与とは?経営者が知るべき3つの基本ルール

「役員報酬は毎月同じ金額にしなければならない」というルールは、多くの経営者がご存知のことでしょう。しかし、その理由や正しい手続きを正確に理解されているでしょうか。もし、そのルールを誤って解釈してしまうと、本来は会社の経費(損金)として認められるはずの役員報酬が否認され、想定外の追徴課税が発生する可能性があります。

この記事では、オーナー経営者の皆様が安心して会社経営に専念できるよう、法人税の基本である「定期同額給与」について、損金算入の要件から正しい改定手続き、日々の経理処理での注意点まで、専門家の視点から分かりやすく解説します。

なぜ役員報酬は毎月同額でなければならないのか?

税法が役員報酬のルールを厳格に定めている根本的な理由は、「利益操作の防止」にあります。もし経営者が事業年度の途中で自由に役員報酬の額を変更できるとしたらどうなるでしょうか。

例えば、期末に想定以上の利益が出そうになった際に、その利益を圧縮するために役員報酬を駆け込みで増額する、といったことが可能になってしまいます。

このような恣意的な利益調整を防ぎ、課税の公平性を保つために、「役員への給与は、原則として事業年度を通じて毎月同額でなければならない」という定期同額給与のルールが設けられているのです。このルールを理解することは、会社の決算申告の第一歩と言えます。

損金算入で得られる節税メリットとは

役員報酬が「損金」に算入されると、法人税を計算する上で大きなメリットがあります。損金とは、法人税法上の経費のことです。会社の利益(所得)は「益金(売上など)- 損金(経費など)」で計算されるため、損金が大きいほど利益は圧縮され、結果として法人税額が低くなります。

具体例で見てみましょう。

損金算入される場合損金算入されない場合
益金(売上など)3,000万円3,000万円
役員報酬以外の損金1,500万円1,500万円
役員報酬500万円500万円(損金不算入)
課税所得1,000万円1,500万円
法人税額(税率20%と仮定)200万円300万円
役員報酬の損金算入有無による法人税額の比較

※簡略化のため、例示では仮に法人税率を20%としています。実際の税負担は法人税に加え地方法人税・事業税等を含む実効税率で変わりますので、正確な税額は税理士等に確認してください。

このように、同じ500万円を役員報酬として支払っていても、ルールを守って損金算入が認められるかどうかで、法人税額に100万円もの差が生まれる可能性があります。定期同額給与のルールを遵守することが、いかに重要かお分かりいただけるでしょう。

定期同額給与以外の役員給与(事前確定届出給与・一定の業績連動給与)

損金算入が認められる役員給与には、定期同額給与の他に以下の2種類があります。

  • 事前確定届出給与: いわゆる「役員賞与」です。支給する金額と時期を事前に株主総会で定め、税務署に届け出ることで損金算入が認められます。
  • 業績連動給給与: 会社の業績を示す指標を基礎として算定される給与です。主に上場企業など、客観的な指標の算定が可能な大企業で用いられる制度です。

多くの非上場の中小企業にとっては、毎月決まった額を支給する「定期同額給与」が役員報酬の基本となります。そのため、本記事ではこの定期同額給与に焦点を当てて、詳しく解説を進めていきます。

会議室で「定期同額給与」と書かれた資料を見ながら打ち合わせをするビジネスパーソン。役員給与のルールについて専門家から説明を受けている。

【最重要】定期同額給与が損金算入されるための3つの要件

定期同額給与として認められ、損金に算入されるためには、以下の3つの要件をすべて満たす必要があります。一つでも欠けると損金不算入となるリスクがあるため、正確に理解しておきましょう。

要件1:1か月以下の一定期間ごとに支給されているか

第一の要件は、「1か月以下の一定の期間ごとに支給されていること」です。実務上は「毎月25日払」など具体的な支給日を定めて運用するのが安全です。

例えば、「毎月25日払い」と定めたのであれば、そのルールを事業年度を通じて遵守する必要があります。資金繰りの都合などで支払日が月によってバラバラになったり、数ヶ月分をまとめて支払ったりすると、定期性が失われ、定期同額給与と認められない可能性があります。会社のルールとして支給日を明確に定め、それを守ることが重要です。

もし資金繰りの都合や手続きミスなどで支払が遅れた場合、帳簿上は支給日に未払計上しておきましょう。

要件2:事業年度を通じて毎月の支給額が同額か

第二の要件は、「その事業年度の各支給時期における支給額が同額であること」です。ここでいう「同額」とは、税法上、以下のいずれかのパターンを満たしていることを指します。

  1. 税金や社会保険料を控除する前の「総支給額(額面)」が毎月同額である
  2. 税金や社会保険料等を控除した後の「手取り額」が毎月同額である

実務上は、管理のしやすさから1の「総支給額」を毎月固定するケースが一般的です。この場合、社会保険料の改定(通常、年に一度)などによって手取り額が変動することがありますが、総支給額が一定であれば定期同額給与として全く問題ありません。

逆に、2の「手取り額」を固定することを選択した場合は、社会保険料の改定に伴って「総支給額」の方が変動することになりますが、これも税法上認められています。

重要なのは、会社の利益操作とは無関係な社会保険料の改定などによってどちらかの金額が変動しても、もう片方の基準(総支給額または手取り額)で同額が維持されていれば、要件を満たすということです。

もし事業年度の途中で役員報酬を増額した場合、原則として増額前の金額を超える部分が損金不算入となります。例えば、月額50万円から70万円に増額した場合、差額の20万円分は損金として認められません。安易な変更は、会社の税負担を大きくする可能性があることを覚えておきましょう。

要件3:原則として事業年度の途中で改定していないか

第三の要件は、役員報酬の改定に関するルールです。報酬額を変更する場合、原則として「事業年度開始の日から3ヶ月以内」に行わなければなりません。これ以降に改定を行うと、原則として定期同額給与とは認められなくなります。

この期間が定められている理由も、通常3ヶ月以下に開催される定時株主総会の議題にできる点の他、前述の「利益操作の防止」です。事業年度が始まってから3ヶ月が経過すれば、ある程度の業績が見えてきます。その段階で自由に報酬額を変更できると、利益操作につながりやすいため、厳格な期間制限が設けられているのです。次の章では、この「正しい改定手続き」について詳しく解説します。

参考:No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)

「役員報酬改定」と記載された株主総会議事録に押印する様子。定期同額給与の変更には正式な手続きが必要であることを示している。

役員報酬の改定(増減)手続きと最適なタイミング

会社の業績や役員の貢献度に応じて、役員報酬を見直したいと考えるのは当然のことです。ここでは、税務上問題なく役員報酬を改定するための具体的な手続きとタイミングについて解説します。

原則:事業年度開始の日から3ヶ月以内の「通常改定」

役員報酬を改定する最も一般的な方法は、「通常改定」です。これは、事業年度開始の日から3ヶ月以内に株主総会等で決議し、報酬額を変更する方法です。この期間内に行われた改定であれば、増額・減額いずれの場合も、改定後の金額がその事業年度を通じて定期同額給与として認められます。

例えば、3月決算の会社(事業年度が4月1日~翌年3月31日)の場合、4月1日から6月30日までの間に定時株主総会などを開催し、役員報酬の改定を決議する必要があります。この期間が、役員報酬を見直すための唯一の原則的なタイミングとなります。

【重要】改定の効力は「決議」のみでOK?「支払」はいつから?

ここで多くの経営者が悩むのが、「3ヶ月以内に改定後の金額の支払いを開始しなければならないのか?」という点です。結論から申し上げますと、税務上の効力発生要件は「株主総会での決議」です。

実務上、この「決議日」と「支払開始月」の関係は非常に重要なポイントです。例えば、3月決算の会社が6月25日の定時株主総会で役員報酬の増額を決議したとします。この場合、4月、5月、6月支給分は旧報酬額のままで、7月支給分から新報酬額に変更することも税務上は認められます。

重要なのは、「事業年度開始の日から3ヶ月以内に、役員報酬の改定決議をしていること」です。支払開始が4か月目以降でも問題ありませんが、合理的理由なく支給を遅らせると否認リスクがあるため、議事録に「決議日・効力発生日・支給開始月」を明記しましょう。

手続きの要「株主総会議事録」の作成と保管義務

役員報酬の改定を決議したことを客観的に証明するために、「株主総会議事録」の作成と保管が不可欠です。税務調査では、役員報酬が正しく改定されたかを確認するために、この議事録の提示をほぼ必ず求められます。議事録がなければ、口頭で「決議した」と主張しても認められません。

株主総会議事録には、少なくとも以下の項目を記載しましょう。

  • 開催日時・場所
  • 出席した株主、役員、監査役の氏名
  • 議長の氏名
  • 決議事項(例:「第〇号議案 取締役報酬額改定の件」)
  • 議案の内容(例:「取締役の報酬を月額〇〇円とする」など)
  • 採決の結果(例:「満場一致で可決承認された」など)
  • 議事録作成者の氏名
  • 議長および出席役員・監査役の署名または記名押印

この議事録を適切に作成し、会社法で定められた期間(本店で10年間)保管しておくことが、将来の税務リスクを回避するために極めて重要です。

期中の改定が認められる2つの例外的ケース

原則として役員報酬の期中改定は認められませんが、会社の経営に予期せぬ重大な変化があった場合には、例外的に改定が認められるケースがあります。ただし、これらの適用は限定的であり、慎重な判断が必要です。

臨時改定事由:役員の職位変更などがあった場合

役員の職制上の地位や職務内容に重大な変更があり、それに伴って報酬を改定せざるを得ない場合、「臨時改定事由」として期中の改定が認められます。

【該当する例】

  • 平取締役が代表取締役に就任した
  • 親会社の役員が子会社の役員を兼務することになった
  • 会社の合併に伴い、役員の職務内容が大きく変わった

【注意点】
単に担当業務が変わった、あるいは名義だけの役職変更といったケースでは認められません。あくまで客観的に見て、職務内容が大きく変動したと説明できることが必要です。

業績悪化改定事由:経営状況が著しく悪化した場合(減額のみ)

経営状況が著しく悪化し、役員報酬を減額せざるを得ない状況に陥った場合、「業績悪化改定事由」として期中の減額改定が認められます。この事由は増額には適用されません。

【該当する例】

  • 主要な取引先の倒産により、売上が激減した
  • 自然災害により、事業の継続が困難になった
  • 財務状況が悪化し、金融機関や取引先への信用を維持するために役員報酬の減額が必要となった

【注意点】
単に「今期は赤字になりそうだ」という程度の理由では、「著しい悪化」とは認められない可能性があります。「第三者である株主や債権者との関係上、役員給与の額を減額せざるを得ない事情」が客観的に存在するかどうかが判断のポイントとなります。安易な自己判断は避け、専門家へ相談することをお勧めします。

決算・申告で慌てない!日常の記帳で注意すべきこと

税務調査で問題とならないためには、株主総会での決議だけでなく、日々の会計処理(記帳)においても定期同額給与のルールを遵守していることを明確に示す必要があります。決算時に慌てないためにも、日常の経理処理のポイントを押さえておきましょう。

なぜ日々の記帳が重要なのか?決算書と申告書への影響

会計帳簿は、会社の経済活動を記録する公式な書類であり、決算書や法人税申告書の基礎となります。税務調査官は、まずこの会計帳簿(特に総勘定元帳)を確認し、役員報酬が毎月同額、かつ、決められた日に計上されているかをチェックします。

もし記帳が不正確であったり、処理が月によって異なっていたりすると、「本当に定期同額で支給する意思があったのか」と疑義を持たれ、損金算入が否認されるリスクが高まります。正しいルール理解に基づいた、一貫性のある記帳が会社を守ることに繋がります。

【よくある間違い】未払計上と不定期支給の混同に注意

中小企業の経営者から特にご相談が多いのが、資金繰りの都合で役員報酬の支払いが遅れてしまったケースです。この場合、絶対にやってはいけないのが「支払った月だけ経費計上する」という処理です。

実務の現場では、役員報酬の記帳が毎月同額で行われていないケースが散見されます。これでは、後から帳簿を見た際に、単に支払いが遅れた「未払」なのか、そもそも支給額が変動する「不定期な給与」だったのか、区別がつきません。これは税務調査で非常に不利な状況を招きます。

資金繰りが厳しく、決められた支給日に支払えなかったとしても、支給日には必ず「未払金」または「役員借入金」として経費計上してください。この処理をしておけば、帳簿上は「1か月以下の一定期間ごとに同額を支給している」形となり、定期性の立証に有効です。

【正しい仕訳例(月額50万円の場合)】
(支給日に)
(借方)役員報酬 500,000円 / (貸方)未払金 500,000円

(後日、資金ができて支払った日に)
(借方)未払金 500,000円 / (貸方)現預金 500,000円

このように処理することで、帳簿上は「毎月同額の報酬が発生している」という事実を明確に残すことができます。この一手間が、決算申告や税務調査の際に大きな違いを生むのです。

定期同額給与に関するよくある質問(Q&A)

ここでは、経営者の皆様からよく寄せられる定期同額給与に関する質問にお答えします。

Q1. 税務署への届出は必要ですか?

A. 定期同額給与の適用や金額の改定に関して、税務署へ事前に届け出る必要はありません。株主総会で適法に決議し、議事録を保管しておけば大丈夫です。
ただし、役員賞与を支給する「事前確定届出給与」の場合は、定められた期限までに税務署への届出が必須となりますので、混同しないように注意が必要です。

Q2. 期の途中から役員に就任した場合、役員報酬は損金にできますか?

A. はい、損金算入できます。期の途中で新たに役員に就任した場合、その就任後に毎月同額の給与を支給すれば、その給与は定期同額給与として認められます。
ただし、就任後、速やかに臨時株主総会などを開催して報酬額を決定し、その議事録を保管しておくことが重要です。

Q3. 間違って違う金額を振り込んでしまった場合はどうなりますか?

A. 経理担当者の単純な入力ミスなど、意図的でない理由で誤った金額を振り込んでしまった場合は、速やかに差額の精算(過払いであれば返金、不足であれば追給)を行い、その経緯を記録しておくことが重要です。
税務調査で指摘された際に、単なる事務的なミスであり、意図的に支給額を変更したものではないことを客観的な資料(振込記録、経緯書など)で説明できるように準備しておく必要があります。ただし、原則として翌月以降の給与で調整する(相殺する)といったことは認められないため、ミスが発覚した時点で速やかに対処することが求められます。

役員報酬の判断に迷ったら専門家にご相談ください

オフィスで相談に応じる信頼できそうな公認会計士。定期同額給与など役員報酬の悩みについて専門家への相談を促している。

ここまで見てきたように、定期同額給与のルールは一見シンプルに見えますが、改定のタイミングや手続き、日々の記帳方法など、遵守すべきポイントが数多く存在します。そして、一度判断を誤ると、会社のキャッシュフローに大きな影響を与える税務リスクに直結します。

「うちの会社の改定手続きは、これで本当に合っているだろうか?」
「資金繰りが厳しい時の経理処理が不安だ…」
「そもそも、今の役員報酬の金額は最適なのだろうか?」

このような不安や疑問を抱えながら経営判断を行うのは、大きなストレスとなります。一人で悩まずに専門家に相談することが、結果的に時間とコストを節約し、会社を守るための最善の策となることも少なくありません。

弊会計事務所では、監査法人や事業会社管理部門での経験を踏まえ、会計・税務上の助言や財務戦略の検討について支援します。役員報酬の設計や決算対策、資金調達の検討等については、個別の事情に応じて適切に判断いたします。まずはご相談ください。

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